自宅の前の坂道を1キロほどまっすぐ登っていくと、ジャイアンツの新しい二軍球場に着く。「ジャイアンツタウン スタジアム」という。今月の1日の土曜日に開場し、その日のこけらおとしのデイ・ゲームにはスワローズが招かれたのだが、どうせチケットは争奪戦だろうと高を括り、行かなかった。それに仕事も入っていた。
雨の中、ランニングのついでにようやく球場を見学してきた。なにもこんな悪天候のときに、とは思ったが、暇がなかったり、暇はあっても坂を駆け上がる体力がなかったり、理由はいくつかあって何日かが過ぎた。
もともと今日は試合の予定がない。雨も降っているから来場者もほとんどいない。親子連れが2組いるだけだった。解放されている2階のコンコースに上がると「ドムドムハンバーガー」が営業している。試合がない日でも売店でテイクアウトして客席で食べられるということらしい。腹も減っていないし、ランニング・ウェアでは寒いので素通りした。

バックネット裏からグラウンドを見渡す。なるほど、これはホーム・プレートも近くなかなかよい。残念なのはバックネットの下、グラウンドに面したところに、日本の球場にありがちな「部屋」が並んでいること。これはどうも気に食わない。
プロ野球の球場だと、甲子園と東京ドームはこの部屋がない。その分だけ客席の最前列も低い。比較的新しい広島のマツダスタジアムや北海道のエスコンフィールドでもこの部屋を設けるから嫌になる。そこは現地観戦のうえでも一等地、テレビ中継でも常に映る場所だ。競技運営のために必要なのだろうが、じつに不粋である。見世物小屋が並んでいるようで趣が感じられない。甲子園と東京ドームがどちらも聖地として野球ファンに認識されていることと、バックネットの美意識が、無関係とは思われない。なんだって物語には情緒は大事である。





コンコースを一周する。ライト側の一部は室内練習場を貫いており、ガラス越しにブルペン投球やマシン打撃の様子を見下ろせる。まるで動物園のオラウータン舎のような作りだ。これは面白い。ライトスタンドはフェンスに沿ってカウンター席になっており、飲食しながらの観戦には心地よさそうだ。レフトスタンドは芝生だ。これからの季節のデイ・ゲームにはいい観戦場所だろう。
すこし離れたところで、なにやらテレビ・クルーがロケを行っていた。ぼくはとくに気にも留めずにいたのだが、ふと気がつくと真後ろに彼らが迫っていた。テレビ・インタビューに捕まった、と反射的に身構えたのだが、そのロケ隊を率いるタレントがジャイアンツOBの宮本和知だとわかり、ぼくの心は一瞬で小学生のあのころに戻ってしまった。ぼくは少年時代、巨人ファンだった。「あっ、宮本」などとぼそっとつぶやいて呆けていると、宮本和知は熟練のタレント・スマイルでもって近くにいた親子連れに声をかけた。素敵な笑顔だった。ああやられたら、だれだって調子を合わせて協力する。
ロケ隊はぼくのことなんか見向きもしなかった。そりゃそうか。ずぶ濡れだし、髭面だし。日テレの朝の情報番組(かどうかは知らないが)に相応しくない。なんとなく悔しくてその場から走り去った。なにかの番組で宮本に驚くランニング・ウェアのずぶ濡れの髭面の男が見切れていたら、それはぼくだ。

球場を出る。往路は稲城駅側から坂を上って来た。復路は京王よみうりランド駅側へ約300段の階段を下りた。球場は二つの駅の中間の丘のてっぺんにあるのだ。どちらの駅からも歩くと15分ほどということだ。いずれにしても上り下りの高低差はそう変わらないだろうが、歩道の歩きやすさは稲城駅側のほうがよほど優れる。東京の都心を見下ろす景色は京王よみうりランド駅側に分がある。試合がある日はシャトル・バスも運行されるらしい。
まだ寒い日がつづくが、野球のことを考えると気持ちがうきうきしてくる。また冬を乗り越えたのだと感ぜられる。


夕飯はヤマイモを擦って出汁と卵黄と醤油で味付けした。それに玉子の味噌汁と冷や奴と米。