何日か前に、ラジオのニュースが木枯らし1号を伝えていた。たしかにその日から寒い。カレンダーを見ると、ちょうどそのころ立冬を迎えていた。秋を感じる日は少なかったが、冬が律儀にやって来た。
夕暮れ時の銀座で仕事を終えた。ぼくとは無縁の購買力を横目で眺めながら、畏怖の念を抱いた。ランニングウェアに着替えて、築地の旧市場の周りを30分ほど走った。そのあとで五反田の会合へ向かった。
ふたたび普段着に着替えるのも面倒だし、気に入りの服にタバコの匂いがつくのも嫌なので、ランニングウェアのままだと都合がいいと考えた。それで長袖シャツに短パンという格好でバーの扉を開いた。するとすでに集まっている仲間たちの一部は大騒ぎである。薄着が過ぎる、寒いだろう、とよく笑う。めでたい人たちだ。あんまりしつこいし、度を越えた発言に腹も立ったから、いっそのこと帰ろうかと思ったが、人が集まればくだらない奴らも何人かはいるものだ。それだけのためにほかの大切な仲間との付き合いを犠牲にするのも癪だから、はっきりとした苛立ちは表明しつつ、我慢した。その甲斐はあった。
クモさんと会うのは久しぶりだった。面倒見のいいクモさんは、ぼくにリエさんと話せという。それでリエさんから興味深い話をいくつも聞いた。たとえば買って読んでみたい本を知った。クモさんも交えて、長野のある美術館のことも知った。
グンちゃんは狂ったようにピアノを弾きまくっていた。ぼくとアオイちゃんは今日も楽器で語り合った。はっきり言って最高だ。ジョニーは来なかった。
これは、腹を立ててもちょっと我慢しろ、という教訓めいた話だ。それに、人を驚かすような格好で現れたぼくも悪い。そういうことにしておこう。本心では、好きな服着たらいいんだよ、まったく。それにぼくにとっては、いまや筋肉が自慢の服だ。寒くない。ほっておいてくれ、という話だ。
この五反田の会合はぼくが顔を出す唯一の騒々しい場所といっていいだろう。これを拒絶したら、いよいよ静かな暮らしにはなりそうだが、はたしてどうか。


