9時半から西荻「さいのね庵」での読書会に参加する。ボルテールの「カンディード」を読む。たしか総勢10名の、とても穏やかな討論だった。楽しい。理解が深まる。それにコーヒーが美味い。しばらく家ではコーヒーを控えているから、外でまともなコーヒーにありつくことが喜びである。
会のあとはそのまま店の通常営業でランチを食べながら、結局みな本の話をしている。そしてこの店は食事も美味い。
主宰のタカちゃんが知り合いの写真展に行くと言うから付いていく。同道はほかにIZさんとBBさん。飯田橋の「Roll」で行われている木村和平さんの『石と桃』を観る。これが主観的な認識を揺さぶられるような面白い展示で、実際、興奮したぼくは足元が覚束なくなった。
仲間と別れ、車を停めてある西荻に戻る。ちょうど日没の時間で、中央線の車窓から見る街や遠くの山並みがとても懐かしい。この一直線の高架橋は景色がよいのだった、と新鮮な気持ちで驚く。とくに冬はよい。
商店街を抜け、オトトハルの店長に会いにいく。今日も忙しそうだ。繁盛している。カメラの使い方を教えてほしいと言うので、お客さんがいなくなったころを見計らってまた参上することにする。
店からすぐのところ、何年か前まではおばあちゃんが洋裁店をやっていて、猫の出入りも多かった古い建物が、外観はそのままに「文武堂」という古本屋になっている。もちろん入ってみる。挨拶をすると店主はアメリカ人のブライアンさんという方で、それ故に洋書の在庫も多い。破産をはっきりと意識しつつ散財し、計算をしてもらっているあいだにも池澤夏樹の本が目に飛び込んできて追加した。ぼくがあまりに喜ぶからブライアンさんも池澤夏樹に興味をもってくれた。彼は、ネパールについての本を何冊か選んだぼくに、隣のギャラリーでネパールで撮った写真が展示されているから作家を紹介すると言い、連れていってくれた。そうとは知らずネパールの本を選んだのだった。
そこではハーフ・カメラで撮られたネパールやインドの写真を拝見し、作家のはしもとりょうさんとはつぎの乾季に現地ポカラで会う約束をした。その場に居合わせた二人の女性にもずいぶん親切にされ、買ったばかりの本が紙袋から溢れる窮地を救われた。恐縮である。
相方の大男に出会ってからというもの、なにかが確実に動き出している。恐ろしさは感じるが、とうぜん、流れに身を任せる所存だ。
オトトハルに戻り、カメラの扱い方講座を行う。その間にも何人かお客さんがやってきて、そのうちのひとりの近所のマダムは「先日この店で買ったストールの巻き方を教えてほしい」と店長に頼み、ぼくと居合わせたもう一人のお客さんも交え、ストールの巻き方講座が始まった。マダムは店長の手でよい感じにストールを巻かれ、笑顔で帰っていった。
店長は会うたびに「西荻に戻ってきなよ」と言う。それに「眼鏡変えた?」とも言う。前者には「うん、そうねえ」と答え、後者には「変えてません」と答える。眼鏡はもう長いこと変えていない。色違いで二つ持っているだけで全部。変えたらこちらから言うことにしようか。
夜、F1は最終戦の決勝レース。いそがしい日曜日だった。たまにはよい。
