奥沢の読書会、島尾敏雄「出発は遂に訪れず」、0km, 20251107

12時間ほど寝て遅く起きると腰の不調はきれいに去っていた。昨日までのぎこちなさが嘘のようだ。風邪が治ったのだとはっきりわかる。ふつうに身体が動くことがとても有難い。いまになって思い返せば今回は長い不調で、これが野球選手なら、10試合でヒットなしぐらいのものだっただろう。当然、プロ野球ワースト記録が脳裏に浮かぶ。

夜、奥沢のバーで行われる読書会に出かける。9月の末に自由が丘ハイフンのサミ・スティーブンスのライブで知り合ったマサトくんが誘ってくれたのだった。残念ながら彼は仕事が終わらず来られなくなってしまったのだが、すでにマサトくんの口ききがあったらしく、主催者のタカちゃんと参加者の面々と店の主人に温かく迎え入れられた。

結果から言うと、ぼくはこの読書会と、タカちゃんが西荻でやっているという別の読書会と、今後どちらにも定例行事として参加することにした。楽しかった。

ここのところのぼくは趣味の付き合いをずいぶん大事にしていると気付かされる。これはやはり陸上競技を通して得たアマチュアリズムの理解がそうさせているに違いない。歳をとって丸くなった、とも言えそうだが、どちらもきっと相互に関連している。

さて、読書会の課題図書は島尾敏雄の短編「出発は遂に訪れず」だった。タカちゃんいわく、戦後80年だから。

初めて読んだ。一言で説明すると、先の戦争で、特攻隊長として出撃待機中に終戦を迎えた作者自身の、昭和20年8月13日から15日にかけての経験が書かれた作品である。まったく異常な状況下での精神の機微が緻密に描かれている。

戦争を生き残ったものがあとになってそのときのことを振り返るということは、戦争をリアルには知らないぼくたちにとって当たり前のようで、じつはそうではない。戦争体験者が戦争を語らないことは珍しくないし、だれもがこれほど深く心理を描写できるわけではないのだから。それ故に貴重なテキストだと思う。それは書かれなかったこと、言葉にならなかったことに、さらに想像力を働かせる必要があるということの裏返しでもあるだろう。

手に入りやすい新潮文庫の短編集『出発は遂に訪れず』は9篇が執筆年代順に収められており、表題作が最後である。最初の作品が「島の果て」で昭和21年1月、最後の「出発は─」が昭和37年7月の執筆だから、戦後間もなくから、約17年間の作者の葛藤の歴史を読み解くことができる。最初から読むのがおすすめ。可成り危ういところを抜けて、とても静謐な世界へと繋がっている。解説を先に読んでも構わない。

それにしても、よいバーだった。ずいぶん賑やかだったから、対話には少々難儀したのだが、とても心地よく過ごした。同席した若者に妙な活力をもらった。誘ってくれたマサトくんに重ね重ね深謝。

猫は日向ぼっこをして得意の様子。「立冬ですから」と言っている。