並木がホームランを打つなら、20241218

連日、5時に起きて、美しい朝焼けを眺めながら現場に向かい、やがて昇った日の、朝一番の光を浴びながら仕事を始めた。西の空には月がまだ浮かんでいた。すこし寝不足ではあるが、とても気持ちのいい働き方だった。朝型の人間に変わるにはいい機会かもしれない。そして、そのまま外で過ごして、日が暮れる。今度は東の空に月が昇ってくる。一日を実感できる。帰り道、多摩川の土手の向こうに浮かんだ居待月がなんともいえず、よかった。すぐ横には火星が見えた。


仕事のあとで上野毛に寄って、髪を切ってもらった。こんなときに他人から丁寧に扱われると、とても癒される。最後の客として見送られ、停めたクルマまで気分よく歩いていると、コインパーキングから出て来た同年輩のスーツ姿の男と進路が重なってしまった。そしてなんとこの男もご機嫌だったのだ。ふんふん鼻歌交じりに跳ねるように歩いていた。「おっと、すいません」「いや、どうも」などと言いながら、お互い妙に照れくさい感じですれ違った。もし、ぼくたちがぶつかっていたら、昨今流行りのファンタジー物語が始まってしまう可能性があった。翌朝ベッドで目覚めたおじさん二人が言うことには「こっちも幸せなのー」である。やれ「仕事楽しかったなあ」とか「月がきれいだなあ」とか「猫かわいいなあ」とか「カレー美味いなあ」とか、物語に深みはなさそうだ。それに見たところ背格好がそう変わるわけでもないし、読者もどっちがどっちだか解らなくなるのがオチだろう。そんなものはファンタジーではなく、ただの「ファンなじぃ」である。……ちょっと強引だったか。じぃと呼ばれるにはまだ早い。

だが一応は、プロットを書いておこう。

ぼくたちは上野毛の路地でぶつかって人格が入れ変わってしまう。どういうわけか、日常生活は支障なく進む。それどころか、前よりうまくいくことが多い。彼はいい写真を撮り猫を愛で、ぼくは証券会社でやたら成績がよくて朝は犬を散歩させている。ところが問題は野球だった。彼はスワローズファンになって、ぼくはドラゴンズファンになっている。4月になり、野球のシーズンが始まり、ドラゴンズファンになってしまったぼくのなかで、スワローズファンだった自分の感覚が疼き始める。それは彼もしかり、である。スワローズとドラゴンズは激しく争い、10月のシーズン最終戦の直接対決で勝った方が優勝という試合を迎える。場所は神宮球場である。レフトスタンドにはぼく、ライトスタンドには彼がいる。試合の途中、ぼくたちはバックスクリーン裏のトイレでお互いに背を向けて用を足す。そのとき歓声が聞こえて、スワローズの並木がホームランを打ったであろうことがわかる。(並木なんかに打たれるなよお……)(うそだろ、並木が打つなら次の回までトイレ待てばよかったよお……)。そして──。

そして日は沈んだ。