
昨日の夜、雨の中を運転しながら、今日の天気は4年前のちょうどいまごろ、この猫を迎えた日の天気に似ていると気づいて、懐かしい気持ちになった。あの日も夕方から冷たい雨が降り始めた。夜、左の前脚を怪我したこの猫を、閉院間際の動物病院に運んで、そしてそのまま家に持って帰ってきた。2020年11月2日のことだった。あとになって、その日をこの猫の誕生日ということにした。まだ体が成猫になりきっていなかったから、そのときで1歳、この11月で5歳という勘定だ。野良猫として1年、家猫として4年、体もずいぶん立派になって、たいした病気もせずに元気に生きている。
一度この猫との暮らしを振り返ろう。
ぼくとこの猫が出会ったのは、ぼくが(いろいろなことが嫌んなって)西荻から千葉の海辺の「サーフィンの町」へと移った2020年5月の引っ越し当日のことだ。不動産屋で鍵を受け取って、さっそく新しい家の扉と窓をすべて開けて掃除をしていると、この猫が慣れた様子で玄関から家に入ってきて、マーキングをしたらしい。らしい、というのは、手伝いに来ていた後輩がその様子を見ていて教えてくれたのだ。ぼくはそのときたしか二階にいたのではなかったか。「猫が来た」と聞いて、もちろんぼくは喜んだ。どれどれ、と見てみると、まだ子猫のように小さいサバトラ柄の猫が僕たちのことを興味深げにうかがっていた。
そのときは、まさかこうして一緒に暮らすことになるとはまったく思わず、適当に、おおよそ便宜的に、それでも親しみはこめて、「メイ」と名付けた。その日がじつに気持ちのいい5月らしい天気だったし、そのときは小さくて細いこの猫をメス猫だと思ったのだ。6月になって新顔の猫がやってきたら「ジュン」と名付けようとか、7月だったら「ななこ」にしようとか、11月だったら「のぶ」だとか、正確には覚えていないが、そんな冗談を後輩と話した記憶がある。
引っ越したその日に猫がやってくるなんて吉兆だと思った。後日すぐにキャット・フードを用意して、この「メイ」が遊びに来るたびにもてなした。たまにほかの猫もやってきたが、どうみても皆、メイよりは肥って強そうだったから、メイだけを我が家の客人とした。
メイはぼくが日中を家で過ごしている日は、たいていは遊びに来た。コロナ禍で、ぼくを東京から訪ねてくる友人もほとんどいなかったから、メイが唯一の客人、という日々だった(いま思えば、コロナ禍は暇だった。たくさん本を読んで、たくさんビールとウイスキーを飲んだ)。しかし、毎日のように食事を与えても、近寄って触れるようにはならなかった。これは人には懐かない猫だとなかば諦めて、食事と自由に休める庭を提供するだけの関係だった。
不思議なのは、遠慮がちで人にも懐かないのに、なぜかその家には慣れていることだった。なにしろ玄関が開いていると迷わず侵入してくるのだから図々しい。もしかすると、前のこの家の住人がこの猫を飼っていたのかもしれない。そして引っ越しのときに置いて行ったとか? 真相はわからない。
次第に、メイはぼくが庭に出ると慌てて顔を見せるようになった。いつも近くで待機していたらしい。ほかにも食事のあてはあったのだろうが、この猫の訪問先リストの最上位に我が家が上り詰めていったのは間違いなさそうだった。




(つづく)