矢野顕子トリオを見たら、どのみち興奮して眠れないことはわかっていたから、ブルーノートではコーヒーを飲んでしまった。それで寝不足のまま朝を迎えた。37歳にもなると、寝不足の日の体調不良に抗えない。動悸、鬱っぽさ、倦怠感を抱えて夜まで調子っぱずれに過ごした。矢野顕子トリオは、どうしても感じすぎてしまう。昨年もコンサートの翌日は調子を落とした。
夕飯をしっかり食べて、食後に筋トレをして、ようやく律動が戻ってきた。本来の調に復した。音楽的に例えると、まさにそんな感じ。
何日か前にジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』を久しぶりに見て、ケイト・ブランシェットの一人二役が、いまのぼくには突き刺ささった。それでこの俳優のほかの作品をひとつずつ見ていくことにした。今夜は『TAR/ター』を選んだ。監督はトッド・フィールド。2023年の公開。下調べせずに見始めて、最初は芸術論がテーマかと思ったら、徐々に不穏な空気に変わって、もしかしてサスペンスなのか? と、はらはらしながら見た。ブランシェットが演じるのはベルリン・フィルの主席指揮者。チェロ奏者役の俳優はもともとが音楽家で、映画はこれが初出演というが好演。音楽の描写は脚本もカメラも演技も、細部までのこだわりが感じられる。
「芸術という深淵に臨む、ひとりの性の頼りなさ」といったところか。ぼくはそう見た。男性を演じたブランシェットの、素晴らしい演技だった。それから衣装がとてもいい。
