夜明け前の甲州街道は無法地帯のようだった。荷台にそれぞれの道具を積んだ職人たちが、度し難いモラルでかっ飛んでいく。世間の目がまだ眠っていると思えばこそ、このような危険運転も犯されるのだろう。僕も荷台に道具を積んだ職人には違いないが、クルマや運転やモーター・スポーツが心底から好きだから、まったく意味の見出せない無茶はしない。「早起きはひとを薄馬鹿にしてしまう」というカフカの説を考えつつ、バックミラーを注視して走った。それはそれでミッションとしては面白い。
7時から新宿の高層ビル街でクルマの撮影。しかし、肝心のクルマが来ない。首都高で渋滞に嵌っているという。現在地から察するに、8時は過ぎるだろう。くだらない。車内に戻って音楽を聴きながら細かい事務作業を進めた。
ふと、道の反対側に目をやると、小学校高学年くらいの少年がタクシーを止めようとしている。彼のすぐ後ろには歩行器に掴まった老婆が立っている。少年の祖母だろうか。とすると少年はヤング・ケアラーか。病院にでも連れていくのかもしれない。すると、僕のクルマの横を通り過ぎたタクシーが、100メートルほど行ったところでUターンして戻ってきた。運転手はタクシーを止めるやいなや、老婆に駆け寄って乗車の補助にあたった。少年の力では介助も大変だと思ったのだろう。タクシーは去っていった。これがサラリーマンかなにかのふつうの客だったら、わざわざUターンまではしなかったんじゃないか。
しばらくすると、こんどは、明らかに酒に酔っている、腕にタトゥをいれた、不健康に痩せた若い男が、道ゆく黒いセダンを選んでは停車させようとしている。タクシーと勘違いしているのだろうか。だが男が止めようとしているのはどれも高級サルーンだ。もしかすると男はいつもハイヤーに送迎されているのかもしれない。ふつうのタクシーには見向きもしていなかった。
これが新宿の朝か。ハード・ボイルドな世界を、しみじみと実感した。
月曜日の東京新聞の夕刊、角田光代の偏愛日記はマラソンについて。レースの終盤、脳が止まれと指示を出しても、沿道の声援がその指示を上回るものだ、という内容。その通りだと思う。
夜、府中市街をぐるっと周るように20キロ走った。もちろん持久力向上のためのスロー・ジョグ。キロ6分のペースを維持した。あまりにも気持ちが良かったから、最後の3キロは飛ばしてしまった。
今夜からメレルの薄底シューズを本格的に導入した。いわゆるベア・フット・シューズ。地下足袋のような履き心地と言ってもいいだろう。裸足の感覚で走れる靴だ。靴自体に反発力がまったくないから、正しい脚の使い方をしなければ走れない。小石なんかを踏むとそれなりに痛い。


