現場近くの駐車場に車を停めたのが11時半。集合時間まで1時間半ある。
朝、本棚から選んだ本は『オセロー』シェイクスピア著、松岡和子訳。これを読んで過ごす。コーヒーも買ってある。コーヒー・ショップの店員は「今日は東京ローストですよ」と、さも有り難い僥倖を喜ぶ様子で僕にコーヒーを差し出した。ずいぶん概念的ないい加減な名前に思えたが、飲んでみるとなかなか美味い。仕事前のいい時間になった。
13時、集合場所で待っていると、最近馴染みの編集者が向こうからやってくる。笑顔である。10メートル先から「こんにちはー」と言って近づいてくる。僕はこの笑顔を損なわないような仕事をしたい。そう思った。10メートル先の相手に声をかけられる声量。屈託のない笑顔。素敵だ。尊敬する。仮にどんな建前だったとしても、他人をたしかに幸せにしているのだから立派だ。
仕事は無事に終わって、丸の内の丸善に寄って帰る。
丸善の前の路上にパーキングチケットで駐車して、1時間以内に買い物を終えるのが最近の僕のスタイルだ。
店内の滞在時間は15分。本を8冊買った。散財だ。頑張って働くだけだ。
600メートルを3本のインターバルトレーニング。周回路までの往復にジョグを3キロ。ヤードバーズとキンクスを聴きながら走った。
夜は、ニューヨーク旅行を控えた友人のために、ささやかな壮行会を開いた。円安に加え、昨今のアメリカと日本との賃金格差では、旅行も大変なことだ。僕が初めてニューヨークに行った18年前は、まだ貧乏旅行が当たり前にできた。それもいまは難しい。この先、そんな時代は戻ってくるのだろうか。渡米前に腹一杯食べてもらいたかったから焼肉にした。
そもそも彼女がニューヨークに行くのは僕に責任の一端がある。僕はこの夏、彼女を連れて、青山のブルーノートに矢野顕子トリオのライブを観にでかけた。その夜ガツンとやられた彼女は、彼らの本拠地であるニューヨークでのライブのチケットをすぐに取った。僕だってガツンとやられて3日間ぐらい調子を崩したのだが、まさかアメリカまで行くとは驚いた。なんだか若さが素晴らしい。いい音楽を聴くことが人生の大事だ。
話しは変わる。僕はパリーグの球団では長年マリーンズを応援してきた。今夜のナイト・ゲームはすごかった。野球を好きでよかった。僕はスポーツに興奮する。プレイヤーの、ひとつひとつのプレイの、あらゆる動作の選択の連続はアートだ。プレイヤーは表現者だ。しかしスポーツは、ある程度真剣に観れば観るほど、残酷さが際立ってくる。打たれたピッチャーのことを思うと、勝利を素直には喜べない。だが、野球の醍醐味が濃縮された素晴らしい試合には違いなかった。