スペースが足りなくなった本棚のことが無性に気になって立川のIKEAまで行くことにした。腰が重い。なにしろ大型連休中である。普通に出かけて行ったら、道も店もひどく混んでいるだろうから、閉店間際を狙って用事を済ませることにした。
なにもこんな連休中に商業施設に行かなくてもいいじゃないか、と一方では思っている。それでもやはり溢れている本が気になるから気持ちを奮い立たせる。たまには連休らしい空気を外で吸うのもよい経験だと言い聞かせる。
クルマを走らせてしまえば、なんとかなる。玄関を出て、運転席に座ってしまえばこっちのものだ。そこでひとつ、この外出にテーマを設けることにした。
「車の運転を、純粋に楽しむ」
我ながらいいアイデアである。ここのところ運転に飢えていた。気持ちのいいワインディング・ロードでなくていい。なんでもない交差点の左折を、安全に、スムーズに、コントロールしたい。
18時前に家を出た。高速の上り線の渋滞情報は赤く染まっていたけど、市街地の一般道はいつもの週末のそれよりかは空いている気がする。オイル交換をしたばかりの車は調子がいい。意識的に丁寧にシフト・チェンジをする。他車にジェントルに譲りつつ、後続車にストレスを与えないように気を配る。それらは小さな自己満足を積み重ねる行為だ。一つ一つの操作が結果を大きく変えるのは登山と同じ。やはり運転は真剣に挑むほうが楽しい。
駐車場にはスムーズに入れた。店内はそれなりに賑わっていたが、あくまでも想定の範囲内。ショールームには立ち寄らず、一直線に目的の本棚を倉庫からピック・アップして会計を済ませた。店内での滞在時間は15分ほどか。なかなかうまく対処できた。2メートルの長い梱包を少し苦労して車に積み込んだ。
帰り道、適当に流していたたNHKのFM番組が面白かった。ヤマザキマリがパーソナリティの『世界史バル』という番組だ。彼女が架空のバルの店長として客役の塾講師(名前は忘れてしまった)と歴史をテーマにトークをする。つまり酒場のよもやま話という設定のトーク番組。放送2回目であるというこの夜のテーマは「タイムマシーンがあったらいつの時代のどこで暮らしたいか?」。いかにも酒に酔ったときに話しそうなくだらなさが絶妙でベタなのだが、この二人の会話が軽妙で声質も美しいから心地よい。二人の広く深い知識に引き込まれていると思ったら、突然主観的な好き嫌いも交えて笑わせてくれたりと、一人きりの車内で大いに楽しんだ。内容もさることながら、そういえば飲み屋で喋るのって楽しかったよな、と懐かしい気持にもなった。
買ってきた棚を組み立てながら、この番組の第1回目の放送を聴き逃し配信で聴いた。やはりラジオは個人的な作業のよい友だ。帰り道、助手席には本棚が寝そべっていた。部屋の中でも僕は一人だ。振り返ってみても、たまたま聴いていたラジオが心に深く届いてくるときは、いつも一人のとき、という気がする。